2016/01/29

Google Toolbarのコマンドを利用したXSS

2015年6月頃にみつけた、toolbar.google.com の、少し変わったXSSを2つ紹介します。

The English version is here: http://mksben.l0.cm/2016/01/google-toolbar-xss.html

何が変わっているか


このXSSは、Google ToolbarがインストールされているIEでしか動作しません。Google Toolbarがインストールされていると、toolbar.google.com 上に用意されたUIから、ツールバーを操作するコマンドを実行できるようになります。このコマンドを利用することでXSSに繋げるという点が、よくあるものとは異なります。

どのようにコマンドを実行しているか


toolbar.google.com 上の次のページをみると、こんなコードを発見できます。

http://toolbar.google.com/fixmenu
<script language="JavaScript"> <!--
function command(s) {
window.location = 'http://toolbar.google.com/command?key=' + document.googleToken + s;
}
function fixMenu() {
command('&fixmenu=1');
alert(document.all['restartmessage'].innerText)
}
// -->
</script>
(省略)....
<input type=button onclick='javascript:fixMenu()' value="Reset IE's Toolbar menu">
このページでは、ツールバーの設定をリセットできるようになっています。

ページ内のボタンを押すと、fixmenu()command('&fixmenu=1')と関数が呼ばれます。command()関数では、window.location="http://toolbar.google.com/command?key="...に対してナビゲーションしようとしているようにみえますが、実はこれがコマンド実行操作です。Google Toolbarがインストールされている場合は、http://toolbar.google.com/command に対するナビゲーション操作が、ページ遷移ではなく、コマンドの実行と解釈されるようになります。 このURLにつけられたクエリが実行したいコマンド操作に対応しています。例えば、このページでできるツールバーのリセット操作は fixmenu=1に対応しています。

'...?key=' + document.googleTokenの部分は、外部から勝手にコマンドを実行させないためのCSRFトークンの役割をしています。document.googleTokenには、Google Toolbar が設定したランダムな値が入ります。この値が正しくないと、コマンドは実行されません。この値は、toolbar.google.com 上のみで参照可能です。

ざっと、こんな作りになっています。
こういう特殊な実装部分にはいかにも脆弱性がありそうです。なんだかおもしろそうなので、時は2015年ですが、Google Toolbarをインストールして詳しくみてみることにしました。

コマンドの調査


まずは、どんなコマンドがあるか、toolbar.google.com 上に書かれたコマンドをみてまわったり、Toolbarのバイナリを覗いてみたりしました。
見ていく中で、navigatetoというコマンドがあることがわかりました。

このコマンドは、名前の通り、ナビゲーションをするためのコマンドでした。toolbar.google.com 上で開いたコンソールで次を実行すると、example.com に対してナビゲーションが起きました。(※なお、最新のGoogle Toolbarではこのコマンドは無くなっているようです。)
location="http://toolbar.google.com/command?key="+document.googleToken+"&navigateto=http://example.com/"
ナビゲーションとわかれば、httpなURL以外でもナビゲーションできるか試してみたくなります。
この部分をjavascript:のURLに変えて試してみます。
location="http://toolbar.google.com/command?key="+document.googleToken+"&navigateto=javascript:alert(1)"
すると、アラートが実行されました!おお!でも、まだ喜ぶところではありません。
なぜなら、document.googleTokenの値が外からはわからないため、このコマンドを誰かに罠リンクを踏ませて実行させるようなことはできないからです。逆に言えば、document.googleTokenの値をどうにかして取得できれば、スクリプトを実行させられるかもしれません。

XSS脆弱性の発見 その1


なんとかならないかと、toolbar.google.com のページをみてまわっていると、次のようなページをみつけました。

http://toolbar.google.com/dc/dcuninstall.html (現在はページが無くなっています。 WebArchive でみれます。)
<script language="JavaScript"> <!--
  function command(s) {
    window.location = 'http://toolbar.google.com/command?key=' + document.googleToken + s;
  }
  function OnYes() {
    var path = document.location.href.substring(0,document.location.href.lastIndexOf("/") + 1);
    command("&uninstall-dc=anyway&DcClientMenu=false&EnableDC=false&navigateto=" + path + "dcuninstalled.html");
//    window.location=path + "dcuninstallfailed.html";
  }
// -->
</script>
...
      <script language="JavaScript"> <!--
document.write('<button default class=button name=yes ');
document.write('onclick="OnYes(); ">Uninstall Google Compute</button>');
// -->
</script> 
最初の例と同様に、ボタンを押すと、コマンドが実行されるようなページです。OnYes()からのcommand("&uninstall-dc=anyway&DcClientMenu=false&EnableDC=false&navigateto=" + path + "dcuninstalled.html");で、コマンドの実行をしています。ここでそうしているように、& で繋げると複数のコマンドを一度に指定できるみたいです。
コマンドの詳細はさておき、注目すべきはここに含まれているpathという変数です。pathは直前で定義されています。
  var path = document.location.href.substring(0,document.location.href.lastIndexOf("/") + 1);
location.hrefからコマンドに含む文字列を受け取っている様子です。詳しくみると、URLの先頭から、 document.location.href.lastIndexOf("/") + 1で、URLの最後に出てくるスラッシュまでをsubstring()で切り取っています。このコードを書いた人が取り出したいのは、以下の太字部分の、ファイル名をのぞいたパスまででしょう。

https://toolbar.google.com/dc/dcuninstall.html

でも、この切り出し方は雑すぎます。余分なスラッシュをもっと後ろに入れられたら予想外のURLを切り取ることになります。

https://toolbar.google.com/dc/dcuninstall.html?xxx/yyy

この切り取った文字列はnavigateto=に連結されるので、ナビゲーションに使いたいようです。
ここではlocation.hrefの先頭から切り取っているため、いくら切り出すURLを間違えているとはいえ、一見、XSSどころかオープンリダイレクトバグにすらならないようにも思えます。

ところが、次のようなURLを与えたらどうでしょう? &がポイントです。

https://toolbar.google.com/dc/dcuninstall.html?&navigateto=javascript:alert(1)//

スラッシュはURL全体の一番最後にあるので、URL全てが切り取られることになります。
このURLがpathという変数に入り、コマンドとして実行されるときの値をみてみましょう。

http://toolbar.google.com/command?key=[TOKEN]&uninstall-dc=anyway&DcClientMenu=false&EnableDC=false&navigateto=https://toolbar.google.com/dc/dcuninstall.html?&navigateto=javascript:alert(1)//dcuninstalled.html


URL に & を挿入したことで、ページ側が指定したnavigateto=に渡るURLは挿入した&の手前で区切られることになります。その後ろに、自身でもう1つnavigateto=を追加します。すると、navigatetoのコマンドが2つあることになりますが、同じコマンドが複数あるときは、一番後ろにあるコマンドが実行されるようになっているようです。よって、発生するnavigatetoによるナビゲーションは、javascript:alert(1)//dcuninstalled.html に対するものになります。これで、アラートが実行されます!

このように、コマンドにユーザー入力値を不用心に引き渡している部分を利用することで、document.googleTokenを知らずとも、XSSに繋げることに成功しました。

XSS脆弱性の発見 その2


さらに、同じようなパターンでXSSできないか toolbar.google.com を漁っていると、また面白いページをみつけました。

https://toolbar.google.com/buttons/edit/index.html
<script language=JavaScript>
<!--
document.custom_button_uid = "";
function command(s) {
  window.location = "http://toolbar.google.com/command?key=" +
      document.googleToken + s;
}

function Load() {
  var url = window.document.URL.toString();
  var url_pieces = url.split("?");
  if (url_pieces.length > 1) {
    var params = url_pieces[1].split("&");
    var i = 0;
    for (i = 0; i < params.length; i++) {
      param_pieces = params[i].split("=");
      if (param_pieces.length == 2 &&
          param_pieces[0] == "custom_button_uri" &&
          param_pieces[1].length > 0) {
        document.custom_button_uid = unescape(param_pieces[1]);
      }
    }        
  }
  if (document.custom_button_uid != "") {
    action.innerHTML = document.forms[0].edit_mode_title.value;
    command("&custom-button-load=" + document.custom_button_uid);
  }
}
....
// -->
</script>
<body onload="Load()">
順に見ていきます。
ページを開くと、body onloadで、Load()関数が実行されます。
<body onload="Load()"> 
Load()関数では、document.URLから自身のURLをurl変数に入れ、
var url = window.document.URL.toString();
クエリを & で分解し、さらに = で分解して、パラメータ名と値のペアを取り出しています。
ここでは、太字部分にあるようにcustom_button_uriというパラメータを探しています。パラメータがあれば、その値をdocument.custom_button_uidという変数に代入するようになっています。
  var url_pieces = url.split("?");
  if (url_pieces.length > 1) {
    var params = url_pieces[1].split("&");
    var i = 0;
    for (i = 0; i < params.length; i++) {
      param_pieces = params[i].split("=");
      if (param_pieces.length == 2 &&
          param_pieces[0] == "custom_button_uri" &&
          param_pieces[1].length > 0) {
        document.custom_button_uid = unescape(param_pieces[1]);
      }
    }        
  }

ここで設定された、document.custom_button_uidはこのすぐ後で、コマンド実行関数へと引き渡されます。
  if (document.custom_button_uid != "") {
    action.innerHTML = document.forms[0].edit_mode_title.value;
    command("&custom-button-load=" + document.custom_button_uid);
  }
少なくとも、ユーザー入力値がcustom_button_uriというクエリを介してコマンド文字列として渡っているということです。危なっかしいかんじがしますが、&ごとにクエリを分解しているため、1つ目のXSSで示したような、単純に&で追加のコマンドを紛れ込ますような手は使えません。

XSSは無理かと思われましたが、もう一度、document.custom_button_uidを設定しているところをよくみてみると、
document.custom_button_uid = unescape(param_pieces[1]);
なんと都合がいいことに、custom_button_uriの値をunescape関数にかけているではありませんか。ということは、発見されると分解されてしまう & と = を以下のようにエンコードしてcustom_button_uriに渡せば、

https://toolbar.google.com/buttons/edit/index.html?custom_button_uri=%26navigateto%3Djavascript:alert(document.domain)

%26&%3D=にunescapeされ、最終的に実行されるコマンドは次のような、navigateto=を含むものになります。

http://toolbar.google.com/command?key=[TOKEN]&custom-button-load=&navigateto=javascript:alert(document.domain)

ドーン!



おわりに


この2件の問題はGoogle VRPを介して報告し、 $3133.7 × 2 の報奨金を獲得しました。
文書化されていないコマンドの動作を把握するのは大変でしたが、古い技術にひっそりと残っている脆弱性を暴けたときの喜びはひとしおでした。
古い技術とはいえ、特権が与えられた機能の実装が脆弱性に繋がってしまうことは、最近トレンドマイクロのパスワードマネージャでもあったように、今の時代の技術にも潜んでいる、今後も注意を払う必要がある普遍の部分だと思います。

最後に、この時期に毎年紹介しているGoogleからのクリスマスプレゼント、今年も頂いたので紹介したいと思います。(以前いただいたものはこちら: ChromebookNexus 10Nexus 5Moto 360 )

Googleのロゴ入りのUSB Armory というガジェットと、Bug Bountopoly(バグハンター版のモノポリー?!)、Googleセキュリティチームからのポストカードです。





日本語のメッセージと バグハンターのイラスト をかいてくれたのは、 夏に日本のGoogleオフィスでお会いしたセキュリティチームのStephenさんです。掲載許可をもらったので載せます。かわいい!

今年もXSS送りできるよう頑張ります!